株式会社中北製作所 様
技術力の高い中堅クラスの製造業は、世界中から寄せられる多様な需要に応え、難易度の高い仕様の製品を設計・製造する力を日々磨き続けている。近年、顧客ニーズの多様化や少量多品種の注文が増加する中で、目指すべきビジネスモデルの一つが「マスカスタマイゼーション」だ。この言葉は、「大量生産(マスプロダクション)」と「顧客個別要求対応(カスタマイゼーション)」を組み合わせたもので、大量生産に近い効率性を保ちながら、顧客の個別ニーズに応じたカスタマイズ製品やサービスを提供することを指す。
自動調節弁、バタフライ弁、遠隔装置の製造をしている株式会社中北製作所は、フューチャーアーティザン株式会社(以下、フューチャーアーティザン)の提供するSaaS型ハイエンドCPQツール「Fleacia CPQ」の導入を通じてこのマスカスタマイゼーションの実現を目指した。
本社
大阪府大東市
創業
1930年5月
資本金
11億5千万円
売上高
約186億円
主な事業内容
自動調節弁、バタフライ弁、遠隔装置の製造販売
左から
株式会社中北製作所 営業部営業課 主任 小田省三 氏
株式会社中北製作所 計装設計部 計装二課 係長 山口拓紀 氏
株式会社中北製作所 計装設計部 計装四課 係長 進 成利 氏
株式会社中北製作所 計装設計部 計装二課 板野祐介 氏
株式会社中北製作所 計装設計部 計装二課 課長 和田邦靖 氏
株式会社中北製作所 営業副本部長 東京営業所長 取締役執行役員 由上晃規 氏
株式会社中北製作所 計装設計部 計装五課 主任 大石晴輝 氏
株式会社中北製作所(以下、中北製作所)は、バルブを中心とした流体装置の総合メーカー。創業以来90年以上にわたり、船舶および陸上プラント向けに各種バルブや流体制御システムを提供。舶用バルブの分野においては、タンカーのカーゴラインやバラストラインのバタフライ弁、遠隔操作装置などで高い採用実績を持ち、国内大型船舶の90%以上に採用されている。陸上プラント分野では電力関係に進出して日本の高度経済成長を支えた。出荷先は中国、韓国、台湾を中心にグローバル市場に拡大。現在では液化水素用大口径バルブの開発など、次世代エネルギーに対応した製品開発に取り組んでいる。
「私たちは、時代に即した製品開発と技術革新を続けてきました。創業100周年を間近に控え、今後もさらなる成長と飛躍を目指しています」と、同社営業副本部長 取締役執行役員 由上晃規氏は紹介する。
中北製作所は、船体の姿勢制御や復原性を確保し、船舶の安全な運航に欠かせない「バラスト水自動制御システム」で世界シェアNo.1。* 船舶や発電所、製鉄、化学など多岐にわたる産業分野で活躍するバルブのプロフェッショナルメーカーだ。その高い専門性から、技術相談を通じて商談が始まることが多く、製品の設計から製造、納品に至るまで長期間を要する。
生産方式は、お客様の仕様に合わせて一つひとつを製造する、多品種少量生産である。これもあって、お客様からの急な注文に応じることが難しく、見積もり提示や納期の遅延等が発生することが少なくなかった。また、設計部門は受注業務支援に時間を費やし、新製品開発や既存製品の改良に十分な時間を割くことが難しく、製品の競争力強化に不安があった。長年の製造手法にも大きな変化がなく、生産性向上の改善も近々の課題であった。こうした状況の中で、「次世代に勝ち残るにはマスカスタマイゼーションしかない」と決断したのが、代表取締役社長の宮田彰久氏であった。「マスカスタマイゼーション改革を進めなければ当社の未来はない、というトップからの強い指示でした。自らが個別受注製造業の他社導入現場を視察し、自社でも取り組むべきと判断したようです」と、由上氏は説明する。
*2008年 主要造船国における大型舶用バルブのシェア。一般社団法人日本バルブ工業会及び一般社団法人日本舶用工業会の資料より中北製作所様調べ
宮田社長からの指示を受けて、2020年に「マスカスタマイゼーション改革」プロジェクトが発足された。「中北ブランド」の信頼性を維持しながら、国内既存顧客に依存しない、新たな市場や新規のお客様の要求に応えるための業務改革を目指した。
「社長命令であわててマスカスタマイゼーションを理解するところから取り組み、書籍を読んだりしました。同時に国内で相談に乗ってくれるコンサルティング会社を探し始めました」と、プロジェクトメンバーの計装設計部 計装二課 課長 和田邦靖氏は振り返る。ここでコンサルタントとして採用されたのがフューチャーアーティザンであった。
「複数のコンサル会社に相談し、当社に『マスカスタマイゼーションが可能』と自信を持って回答してくれたのはフューチャーアーティザンのみでした。当社の企業風土を尊重しつつ、現実的な方法論が展開されていました」と和田氏はフューチャーアーティザンに依頼した理由を語る。
同社では2021年1月から3月にかけて、フューチャーアーティザンをパートナーに業務改革のグランドデザインの構築を開始した。
フューチャーアーティザンの協力により、マスカスタマイゼーション導入に向けた戦略ツリーと変革マイルストーンを設計。この3カ月間の検討の結果、マスカスタマイゼーション実現のボトルネックが設計工数にあると判明し、工数削減の手段としてCPQシステムの導入が浮かび上がった。
2021年半ばから2022年にかけては、CPQ導入の可能性を探るためのトライアル検討フェーズに入る。システムのトライアル環境を構築し、既存の見積もりデータをシミュレーションに活用し、業務効率が本当に向上するのかの検証が繰り返された。
トライアル検討フェーズ段階を経て、2022年2月からデータ管理の仕組みや業務プロセスの設計に本格的に着手する。これまで営業と設計が共同で行っていた見積もり作成の流れを見直し、CPQを活用することで営業がお客様から求められる仕様を、直接システム入力する新たな見積もり作成のプロセスを構築していった。
新しいプロセスは、従来必要だった設計部門や上司の確認と承認を簡素化し、業務効率を飛躍的に向上させることができる。一方、プロセス上の責任分担が変わるため、どの段階で誰が何を管理するのかなど、関係者間で議論を重ねてルールを定めていった。
2022年8月から「Fleacia CPQ」を実際に活用した、営業部門も交えたテスト段階に入った。対象製品の営業担当が実際にデータを入力し、システムの使い勝手や運用上の課題を洗い出していった。「CPQ導入は営業部門にとっても見積もり提出の迅速化というメリットがあり、期待するところも大きかったといえます。ただ、部門内ではそれまで設計部門に頼っていた業務を営業が担うことへの抵抗があったのも事実です」と、当時の状況を同社 営業部営業課 主任 小田省三 氏は説明する。これには和田氏はもちろん、社長自らも説得に当たった。
設計側からプロジェクトに参加した計装設計部 計装二課 板野祐介 氏は、設計検討プロセスをデジタル化するにあたり、「Fleacia CPQ」のポテンシャルの高さを認める。
「プログラミングの知識が不要で、主にエクセルを用いて設計プロセスのルール化が可能です。こうしたノーコード開発の仕組みでは、一般的には機能がパターン化してしまうのですが、Fleacia CPQでは複雑で多様なロジックを実行することができ、中北独自で必要となるサイジング計算や関数など、現場が必要とする機能をフューチャーアーティザンが盛り込んでいってくれました」と語る。
2023年6月からは正式に「Fleacia CPQ」が稼働を開始し、中北製作所様の見積もり作成プロセスが大きく変わった。CPQの導入により営業部門が自己完結で見積もりを作成し、お客様に回答できる体制が整った。7種類の弁のうち4種類がCPQの対象となって、今後さらに残り3種類の弁に対応範囲が拡大していく予定である。
「お客様からは対応が速くなったとの評価を受け、信頼性と顧客満足度の向上につながっています。素早い見積もり対応は、営業担当のやる気をお客様に伝えることができます」と、導入の効果を小田氏は高く評価する。さらには次のようにも語る。
「CPQの導入後は、設計に相談するケースが減りました」と笑顔を見せる。同社ではCPQの操作方法について設計部門に問い合わせ窓口を設け、営業からの相談に対応するなど、定着に努めている。
「対象となっている弁の半数近くの見積もり作成において設計部門の関与が不要となり、設計部門の業務負担が大きく軽減されました」と、計装設計部 計装二課 係長 山口拓紀 氏も認める。
「これまで担当者ごとに異なっていた見積もりや設計ルールの標準化に成功し、設計業務の効率化ができました。現在特注対応として設計部門に回されてくる案件についても営業部門で完結できるようにルールを整備していきます」と、計装設計部 計装五課 主任 大石晴輝 氏は効果と今後の取り組みを語る。
計装設計部 計装四課 係長 進 成利 氏も、これまで属人化されていた設計の標準化に期待している。
「新入社員がバルブの選定を行う際、CPQ導入及び運用のために作成した標準化資料やデータが教材となり、技術の伝承に役立つのではないかと思います」と社内での技術継承を考えている。
しかしながら、まだマスカスタマイゼーションのゴールにはほど遠い、と由上氏は指摘する。
「CPQの導入により営業部門が自立して見積もりを出すことが可能になりました。フロントローディングが可能となった状態です。トップが望むマスカスタマイゼーションはさらにその先にあります」というのである。
付加価値を向上できる製品改良や開発にやっと着手することができるようになった段階と和田氏も語る。
「製品構造そのものをモジュラーデザインに対応させ、設計の自由度とバリエーションを充実させます。そしてさらに顧客満足度を向上させていきたい」とゴールへの意欲を語った。
※取材日時:2024年11月
※株式会社中北製作所
「大量生産(マスプロダクション)」と「顧客個別要求対応(カスタマイゼーション)」を掛け合わせた言葉で、大量生産に近いビジネス効率で顧客個別のニーズに対応し、カスタマイズされた製品・サービスを提供するビジネスモデルを意味します。マスカスタマイゼーションを実現することで、顧客への提供価値を向上し顧客満足度が高まります。さらに、生産コストの削減による収益拡大や、高効率化により市場普及力が高まりシェアが拡大するなどのメリットが見込まれます。
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