
【GHG排出量とは?】温室効果ガス削減や企業に求められる役割について
地球温暖化をもたらす要因として、温室効果ガス(GHG)は世界的に問題となっています。今やGHG排出量削減への取り組みは、気候変動対策だけでなく、企業価値の向上にも繋がるとして、注目されています。
しかし、GHG排出量の計算は複雑で、頭を悩ませている企業担当者の方もいらっしゃることでしょう。そもそも、GHG排出量の定義や、削減のための取り組みについて、正確に理解できていないケースが多いのではないでしょうか。
本記事では、GHG排出量の概要や算定方法、具体的な対応について解説します。
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GHG排出量削減が求められる背景
GHG(Green House Gas)とは、「温室効果ガス」を意味する用語で、地表から出る熱を宇宙空間に放出せず吸収して、大気中に留める働きを持つ気体の総称です。近年、話題になっている地球温暖化の原因は、このGHG濃度の上昇にあるといわれています。
GHGの定義
日本の法律では、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)のほか、一酸化二窒素(N2O)、代替フロン(ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、六フッ化硫黄(SF6)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、三フッ化窒(NF3)の4ガス)の7つをGHGと定めています。
GHGの「温室効果」により、地球の大気は生き物が暮らしやすい状態に保たれています。
GHG排出量の増加がもたらす影響
19世紀の産業革命以降、私たちは石油や石炭などの化石燃料を燃やしてエネルギーを取り出し、経済を成長させてきました。なかでもCO2は、世界のGHG排出量の大部分を占める代表的な温室効果ガスで、その大気中濃度は1750年に比べて40%も増加したといわれています。
温暖化によって、気候変動という形で地球上にさまざまな変化が表れています。国内でも、2018年の西日本豪雨、2019年の台風15号や19号による大水害、2020年の熊本豪雨、2021年の熱海の大雨による土石流など、異常気象による被害が深刻化しました。世界では、ハリケーンやサイクロンによる大規模な高潮や猛烈な風雨、大規模な山火事や干ばつも毎年のように発生し、甚大な被害をもたらしています。
国際的な環境非営利団体CDPの調査によると、世界の大企業が気候リスクによって負う損失は、約1兆ドルと報告されています。気候変動リスクの経済への影響が、地球上の重要課題として認識されつつあります。
GHG排出量削減が求められる背景・各国の取り組み
2015年に、世界全体としてのGHG削減枠組みである「パリ協定」が締結されました。
パリ協定は、以下のような世界共通の長期目標を掲げています。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
※引用:資源エネルギー庁
パリ協定に合意する国々には、5年ごとに国別目標(NDC)と呼ばれる「温室効果ガスの排出削減目標」を提出・更新する義務があります。
2021年4月、日本は「2050 年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」というNDCを示しました。
※引用:日本のNDC(国が決定する貢献) | 環境省
なお、パリ協定で各国が自主的に定めた目標は次のようになっています。
GHG排出量削減企業が取り組むメリット
これまで、企業による温暖化防止対策は経済成長のブレーキとなるコストと捉えられてきましたが、実はGHG削減の取り組みは企業にとっても大きなメリットが得られます。
ここでは、企業がGHG削減の取り組みによってもたらされる3つのメリットについて解説します。
①コスト削減効果
GHG削減活動の一環として、エネルギー効率の改善や資源利用の最適化が進められることで、大幅に経費を削減できます。
例えば、オフィスの空調管理システムの省エネ化です。設備を入れ替える場合、初期投資は必要ではあるものの、無駄な電力消費を抑えられ、ランニングコストの削減になります。
また、製造業では工場の照明をLEDに変更したり、小売業では包装資材の見直し・削減を行ったりすることで、環境負荷を抑えながら、長期的な財務面でのプラス効果をもたらします。
省エネルギー促進に向けた支援補助金制度も増えており、省エネ機器や施設の改修にかかる費用を軽減できるのもポイントです。
②ブランドイメージの向上と顧客・投資家からの支持獲得
SDGsやESG経営が注目される昨今、自社の利益追求だけでなくGHG削減に取り組む企業は、社会的に信頼できるブランドとして認識されやすくなります。
年間のCO₂排出削減量など、企業が環境への具体的な貢献度を示すことは、顧客の注目や信頼を集め、競争力を強化する重要な要素です。
また、GHG削減の取り組みを通じて持続可能なビジネスモデルを有する企業として投資家に評価されれば、資金調達が有利に進むケースも。特に最近ではESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から、非財務情報の重要性が高まっており、GHG排出量への対策は長期的な企業価値の向上につながります。
③新たなビジネスチャンスの創出
GHG削減に取り組むなかで、企業は従来のビジネスモデルに加えて新たなビジネスチャンスを見出すこともできます。
例えば、環境負荷の少ない製品やサービスの開発です。再生可能エネルギーの活用など、サステナブルな製造プロセスを取り入れた製品やサービスは、環境に配慮する消費者層へ新たにアプローチする機会となります。
その他にも、GHG削減の取り組みを通じて他の企業や団体、地域自治体とのパートナーシップが生まれれば、共同プロジェクトを推進することもできるでしょう。
GHG排出量の計算方法
脱炭素社会実現に向けた動きが加速するなか、GHG排出量の抑制を図るためには、各企業が自らの活動により排出されるGHGを算定・把握するのが基本です。
GHGプロトコルとは
企業は自社工場やオフィスだけでなく、原料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れから発生するGHG排出量(=サプライチェーン排出量)の算定が求められます。サプライチェーン排出量を求める際にポイントとなるのが、国際的な規格である「GHGプロトコル」です。
GHGプロトコルに基づいた排出量の報告により、環境への影響度や貢献度が定量的に示され、企業や国、地域間における比較を可能にしています。
サプライチェーン排出量の基準「Scope 1・2・3」
GHGプロトコルは、1つの企業から排出された温室効果ガス排出量(直接排出)だけではなく、サプライチェーン全体における排出量(間接排出)まで重視し、これらの流れを「Scope1(スコープ1)」「Scope2(スコープ2)」「Scope3(スコープ3)」の3つに区分しています。
「Scope 1・2・3」のそれぞれのGHG排出量を合計した数が、企業のサプライチェーン排出量になります。
サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量
- Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの排出(直接排出)
- Scope2:他社から供給された電気・熱・蒸気のエネルギー使用に伴う排出(間接排出)
- Scope3:事業者の活動に関連するそのほかの排出(Scope1・2以外の間接排出)
出典:環境省
燃料の燃焼や、製品の製造などを通じて企業・組織が「直接排出」するGHGが「Scope1」です。メーカーが製品をつくる際、石油や石炭などの燃焼によってCO2を排出する場合などが該当します。
「Scope2」は、他社から供給された電気・熱・蒸気の利用により、間接的に排出されるGHGです。企業の拠点であるオフィスビルに、電力会社から電気が供給され、その電気が火力発電によって作られている場合が該当します。
「Scope3」は、モノやサービスの購入後の利用や、製品の廃棄にいたるなかで排出されたGHGが対象です。原料調達、製造、物流、販売、廃棄など広い範囲におよぶため、サプライチェーンの上流と下流で、15のカテゴリに分類されています。「Scope3」におけるGHG排出量は、15カテゴリ全ての排出量を合計したものです。
出典:環境省
新基準「Scope4」
近年、GHGプロトコルに記載のない「Scope4(スコープ4)」という新たなカテゴリが登場しています。「Scope4」はGHG排出量ではなく、企業がビジネスを通じてGHG排出削減に貢献した量(削減貢献量)を示す基準です。
エネルギー効率に優れた製品を開発する際、新しい技術を用いた影響によりScope1~3がかえって増えてしまうというジレンマを考慮し、サプライチェーン上の温室効果ガス排出量ではなく「削減量」に注目しています。
「Scope4」の削減には、以下のような取り組みが例として挙げられます。
- 家電メーカー︓製品の省エネ性能向上 ⇒ 従来品より使⽤者の排出量が減少
- 素材メーカー︓超軽量材料を航空機に採⽤ ⇒ 航空機の軽量化により燃費向上 ⇒ 航空機の運航に伴う排出量を削減
- 建材メーカー︓⾼断熱住宅へのリフォーム ⇒ 住宅の冷暖房の使⽤量削減 ⇒ 電⼒消費量の削減分だけ排出削減
- ソフトウェア会社︓テレビ会議システム ⇒ 電⾞などの移動に伴う排出量を回避した分だけ排出削減
日本のGHG排出量の現状
2020年10月、菅義偉首相(当時)は、所信表明演説において、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。
さらに「次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした革新的なイノベーション」を鍵として、これらの技術革新を促進し、経済と環境の好循環をつくり出すと表明しています。
日本のGHG排出量
環境省によると、2022年度の日本のGHG排出量(CO2換算)は、約11億3,500万トンで、森林などによる吸収量を差し引くと約10 億8,500万トンです。その推移をみると、2013年度以降、9年連続で減少しているのがわかります。
出典 :環境省
GHG排出量のなかでも、9割以上を占めているのがCO2(約10億3,700万トン)で、メタン(約29.9億トン)や一酸化二窒素(約17.3億トン)を抑えて最も高い割合です。CO2排出量のうち、その大部分(約9億6400万トン)が燃料の燃焼や、供給された電気や熱の使用にともなって排出されたもので、これらは「エネルギー起源CO2」と呼ばれます。
2022年度のエネルギー起源CO2の主な排出源は、以下の通りです。
- 産業部門:鉄鋼業や化学工業、機械製造業からの排出が中心で、全体の4割弱を占める
- 運輸部門:自動車、鉄道、船舶、航空機などの交通手段からの排出。約6割が旅客輸送、 約4割が貨物輸送からなる
- 業務その他部門:企業のオフィスや商業ビル、公共の建物などからの排出。卸売業・小売業からが最も多く、次いで、宿泊業・飲食サービス業、医療・福祉と続く
- 家庭部門:家庭で使用される電力やガスなどからの排出。照明・家電製品に由来する排出の割合が半数を占める
世界のGHG排出量
環境省によれば、2021年時点での世界全体の化石燃料からのエネルギー起源CO2排出量は年間336億トンとされています。上位には中国(31.7%)、アメリカ(13.6%)、EU(7.7%)が並び、これらの地域が過半数を占めています。
日本は3%と、全体の割合としてはわずかですが、6番目に排出量の多い国です。持続可能な未来の実現のため、政府や企業、消費者が一丸となって排出削減に取り組む必要があるでしょう。
出典:環境省
企業が取り組むべきGHG排出量削減策
GHG排出量削減は、経済成長のためにも必要だとわかっていても具体的にどうすべきかわからない担当者の方もいらっしゃるはず。具体的に、どのように取り組んでいくべきか紹介します。
まずは現在、自社のどこで、どのくらいGHGが排出量されているかを把握することが重要です。計算方法については、前述した「GHG排出量の計算方法」を参考にしてみてください。
具体的な取り組みとしては、下記が挙げられます。
- 再生可能エネルギーの導入:太陽光や風力、水力、地熱、太陽熱、バイオマス(動植物由来の有機物)など、再生可能エネルギーにより発電された電気の使用を推進する
- 省エネに取り組む:工場のエネルギー使用量の削減や車両動態管理システムの導入によるトラック輸送の効率化など、エネルギー使用量を抑える
- サプライチェーンの脱炭素化に励む:製品やサービスの原材料調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまでで、GHG排出量を削減するよう取り組む
自社はもちろん関連企業や取引先など、ステークホルダー全体で取り組む必要があります。
GHG排出量削減の事例
小売大手のI社の再生エネルギー導入
同社は2030年までに、国内で運営するショッピングセンターやスーパーで使用する電力について、100%再生エネルギー導入を目指すと発表しています。
これまで、店舗屋上などへの太陽光発電システムやPPAモデル(施設内に太陽光発電設備を設置し、その発電電力をその施設で消費する)の導入拡大、卒FIT電力(一般家庭の太陽光発電で余った電力)の買い取りなどに積極的に取り組んできました。
更生ドラム缶の販売や再生加工に関わるK社の省エネ
社内の照明の見直しやボイラーのガス使用量削減等に取り組み、ドラム缶1本の洗浄に使用する電力量を、2006年の4.4kWhから2013年には3.6kWhへと減少しました。
大手食品メーカーN社のサプライチェーンの脱炭素化
Scope1およびScope2の削減として、⼯場での省エネや機器更新、燃料転換、CO2低排出電⼒会社への変更などを行い、Scope3の削減として輸配送時のモーダルシフト化、容器包装の軽量化やバイオマス化などに取り組んでいます。
このメーカーは、企業の温室効果ガス排出削減目標を設定する国際的な枠組みである「SBT」に認定され、環境問題へ積極的に取り組む企業として認知されました。
まとめ
企業によるGHG削減の取り組みは、パリ協定が掲げた脱炭素社会の実現のために必要不可欠な要素です。また、経営に直結する競争力としての重みも増しています。
とはいえ、GHG排出量の算出・報告は専門性が高く、情報収集や基準策定に苦慮する企業も少なくありません。
当社が提供する「ESG経営共創サービス」は、企業によるGHG排出量削減の取り組みをESG経営の視点から支援するサービスです。GHGプロトコルに基づくGHG排出量の効率的な可視化はもちろん、その先の「削減貢献」まで見据えて全面的にサポートいたします。
そして独自に提唱するScopeV(価値共創)へ発展させていく支援を行っており、非財務情報を企業価値へと転嫁させます。
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※本コラムは、2025年6月4日時点の情報です。