
気候変動ファイナンスの専門家と語る 製造業のためのESG戦略その2
環境と成長のジレンマを越えるために、製造業に求められる"ESG実装力"とは?
本対談は、前回の議論を受け、企業がESG活動を持続的な成長につなげるための具体的な「実装力」に焦点を当てます。ESGを「コスト」ではなく「価値創造」と捉え、労働生産性の分母(効率化)だけでなく分子(価値)を上げていく必要性を確認。若手社員が将来のシナリオプランニングに参加することによるエンゲージメントの向上、そして投資家が求める「リスクとオポチュニティ」を明確にした情報開示の重要性について議論します。
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労働生産性の分子を上げる価値創造へのシフト
田中:
そもそも製造業は、労働生産性という基準で言うと、分母側を下げる効率化や改善で生産性を上げてきたところから、日本より安い国がたくさん出てきています。分母側を下げるだけだとやっぱりダメで、欧州みたいにルールチェンジをどんどんやって、価値を想像していく分子側を上げていくような労働生産性の向上が必要なんじゃないか。
今後先を見た時に、ESGというテーマが非常に重要になってくるんじゃないか。これは最初マネタイズは難しいかもしれないけど、誰かがやっていかない限りダメで、特に大学生とかもそういうことに興味ある世代が社会にどんどん出てく時に、それの受け皿というか、そういうことをちゃんとやれるんだよという風にしてあげないと、多分その彼らせっかく学んでやろうとしても企業以外に手がないというのは可哀想ですよね。
吉高氏:
実際に私の教えの中では、北海道のSDGs先進地に就職に行ったりとか、本当にやりたい人たちは自分でそういう力はあると思うんですね。ですが、人事の方が就職活動の時にそれをはっきり言えるのかというのは、学生に聞くとまだそうではないというところもあるみたいなんですよね。
田中:
私は逆に掘り下げて、そういうことについてどういう興味を持っていて、どんなことやってみたいのかというのを、やっぱりどんどん聞くようにはしていますね。
吉高氏:
今、有価証券報告書の中でサステナビリティ開示というのができて、企業もサステナビリティに関しては開示しなくてはいけない。これは社長のコミットメントで、労働環境についてとか、気候変動のような長期的な目線でどれぐらい社長が考えているのかというのが、有価証券報告書というものに出るということは非常に大事なことだと思っています。
社内エンゲージメントを高める「未来の自分ごと化」
田中:
私は中計を作った時の大方針に「人の成長の先に会社の成長を目指す」としたんですよ。今までは会社が成長するので「こういう人になってください」というスタンスが多かったと思うんですけど、大きなパーパスやビジョンに対して皆さんはどういう成長してったらこれ実現できると思いますか、と。その成長が積み重なると会社が成長する。
あるクライアントのところで面白いことをやっていて、2035年とか2040年どういう世界になっているかというのを、従業員の20代、30代の人にシナリオプランをさせるという会社がありました。
そこの28歳の社員が、「2040年というのは、私は40何歳で会社のリーダーの一人になってなきゃいけない年なので、その時に世の中がどうなってるかを考えるのは当たり前です」と答えたんですよ。
この活動をやってどうでしたかと聞くと、共通している意見が2つあって、一つはまず会社に対するエンゲージメントが上がった。「自分たちの将来を考える時間をくれて、それを自分たちがどう実行していくかということを考える自分ごとになっていた」と。もう一個は視座が上がった。今まで役員が何を言ってるのかが、こういうことになるからこう意見を言ってんだということが理解できるようになった。
吉高氏:
要はロイヤリティが上がるということですね。情報開示というのは、相手に伝わらないと意味がない。欧米で統合報告書を作る場合は、「ディアインベスター」「ディアビジネスパートナー」「ディアエンプロイー」なんです。従業員の方、ビジネスパートナーの方、投資家の方に理解してもらうための情報開示なんです。

トランプ政権下の反ESGムーブメントを「チャンス」と捉える
吉高氏:
日本にESGが来たのは2014年ぐらいからですが、それまではなかなか情報開示が進んでいませんでした。一方で、今回トランプ政権なり、反ESGの風があるということでご心配の方々もいらっしゃるかもしれないですが、私これチャンスだと思ってるんですね。
遅れていたんだったら今、日本企業がきちっとやることによって、明らかにある程度の市場はできているし、別の市場も作れるかもしれない。それは日本の製造業って私はすごく強みだと思っています。
気候変動の会議に行きますと、自然資本の保全とサーキュラーエコノミーが重要視されています。CO2を下げるということは、これまでバイプロダクトであったプラスチックが難しくなってくるかもしれない。私はCO2を下げるのはコストだというのもそうですけれども、このサーキュラーエコノミーと実は新しい技術イノベーションができるチャンスもあると思ってるんですね。
ネクサス(繋がり)という言葉が海外ではよく使われるようになりますが、日本の場合、気候変動というと「化石燃料を下げなくちゃ、コストだ」となりますが、実は再エネをやることで地域はレジリエンスになったりとか、自然資本とのバランスを取るネイチャーポジティブといったことにも繋がる。この世界が停滞している時に日本が一歩出るというのは、非常にタイミングとしてはあるんじゃないかな。
田中:
トランプさんはパフォーマンス的に来ると思うんですけど、それがなくなるかというと絶対なくならないと思う。下火は多少するかもしれない。おっしゃるようにその間に逆に追いついて追い越していく、これはやっぱすごいチャンスだなと思います。
技術で資源国になる:日本の複雑性とストーリーテリング
田中:
これって技術で資源国になるという可能性が実は出てきてるんじゃないかなと思っています。例えばエネオスさんがやっている合成燃料は、再生エネルギーから水素を作って合成燃料を作る。そうすると日本の得意な技術である内燃機関が生きてくる。
今まで石油も掘れないし燃料も出てこないけれども、技術で資源国になるというようなキャッチフレーズでもっとやれるんじゃないかと。そうすると、日本が技術を持って資源国になれるんだ、だったらもっと製造業をこうしていこうといういい循環が回るんじゃないか。
吉高氏:
サーキュラーというのは、日本の循環型のこれまでの考え方は、輸入国で資源を外から買ってきていましたが、一旦使った資源をまず使い続けるという技術が生まれたならば、日本は資源がなくとも、非常に自給率の高い国になっていけるんじゃないか。イノベーションとか技術というのはとっても重要だとは思いますよね。
リスクとオポチュニティの両方を出さないといけない。金融機関は将来の予見性を測るために、リスクとオポチュニティの両方を見ます。日本は非常に真面目な国民なので、きちっとできることを積み上げるというのは信頼度が高いのですが、やはり夢を語ったりワクワクすることを語らないと、実はお金ってこないんですよ。
田中:
自価総額が高いところって別に売上が高いとか利益が高いというよりは、やっぱりその期待感が高いじゃないですか。でも日本ってやっぱりそういう期待感を表に出すの得意じゃないから株価に繋がってないと思ってて。
吉高氏:
もっと言っていいよ、と。失敗しても別にチャレンジしてるんだからいいんですけど、やっぱりその失敗させない、失敗しないような教育ってのも結構強かったかなと思っていて。どれだけ失敗してもいいよって多分あんまり言われてない。
田中:
自分たちの強み、価値みたいなのがあって、ベースとなるものがちゃんとあれば、いろんなところを変化させていけるわけですよね。「まだ見えてない価値」を、みんなが知らないということを知らしめるテーマとして、ESGを使っていきたい。

吉高 まり 氏
米国ミシガン大学環境・サステナビリティ大学院科学修士。慶應義塾大学大学院政策・メディア科博士(学術)。東京大学教養学部客員教授。慶應義塾大学特別招聘教授。IT企業、米国投資銀行などでの勤務を経、2000年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券においてクリーン・エネルギー・ファイナンス部を創設、気候変動関連の資金枠組みづくり、カーボンクレジット組成、ESG、サステナブルファイナンスなどに関与。これらの知見を活かし、政府、地方自治体、金融機関、事業会社に向けてサステナブルビジネス、地方創生の領域についてアドバイスなどを提供するため社団法人を設立。環境省脱炭素先行地域評価委員、GX推進機構運営委員、国際園芸博覧会理事、東京都参与、金融庁サステナブルファイナンス有識者会議メンバーなど政府委員多数。
※プロフィール出典:https://www.virtue-design.or.jp/profile
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