catch-img

理想のグランドデザインと「実装の深い溝」を埋める実務型PLM構築アプローチ

前回のコラム「なぜ『業務のデジタル化』だけではPLM導入は失敗するのか?」では、システム導入の前に自社の強みを反映した「有機的グランドデザイン」を描く重要性について解説しました。しかし、優れたグランドデザインを策定したとしても、それだけではPLMシステムは適切に機能しません。

今回は、企画構想フェーズとシステム実装フェーズの間に横たわる「溝」の要因を紐解くとともに、パッケージ導入のメリット・デメリット、さらにはスクラッチやハイブリッド型といった多様な選択肢を実務視点で比較し、自社にとっての最適解を導き出すためのアプローチについて解説します。

 

▼前回のコラムはこちら

なぜ策定されたグランドデザインは現場で「動かないシステム」になるのか

多くの企業において、外部のコンサルティングファームや社内のDX推進部門が主導し、全社的な「あるべき姿(To-Be)」や新しい業務フローを策定するケースが見られます。これらは経営戦略の視点から理想的な状態を定義する上で重要です。

しかし、いざシステムの開発・実装フェーズに移行すると、プロジェクトが停滞、あるいは稼働後に現場で利用されない事態が頻発します。その主な原因は、策定されたあるべき姿(To-Be)が「概念的なレベル」にとどまっており、個別受注製造業における現場の複雑な実務を十分に網羅できていない点にあります。

現場では日々、突発的な仕様変更、過去の設計図面の流用、例外的な部品手配など、イレギュラーな対応が発生しています。理想のあるべき姿と現場の実務の間に存在する「機能視点の業務/システム分担」や「データ視点の構造/所在の整理」作業を怠ったままシステム開発を進めると、結果として現場の実態に合わないシステムが構築されることになります。

パッケージ標準(Fit & Gap)のメリットと、無理に「寄せる」ことの悲劇

このような実務とシステム設計の乖離を埋める手段として、一般的にITベンダーから提案されるのが「システムの標準機能に業務を合わせる(Fit to Standard、または単にFit)」というアプローチです。
大手PLMパッケージの導入には明確なメリットがあります。世界中で使われているという実績と安心感、大規模・長期運用への耐性に加え、BOM管理や変更管理(ECR/ECO)、権限・履歴管理といったPLMの“王道機能”があらかじめ揃っている点です。さらに、CADやERP、MESとの連携実績が豊富で、将来的な海外拠点展開にも対応しやすいという拡張性も備えています。

本来、PLMパッケージは「マスタ管理システム」としての性格が強く、標準品(カタログ品)の静的な管理には非常に長けています。しかし、個別受注製造業のように、都度設計による動的な「トランザクションデータ」が主となる特注業務においては、パッケージの標準機能のままでは適合(Fit)しにくいという本質的な構造上の制約があります。この特性を無視して自社業務を100%適合させようと無理を重ねた結果、現場の業務負荷が著しく増大するケースが少なくありません。

実際に、ある産業機器メーカー(A社)の事例では、他社ベンダーやコンサル主導で「パッケージ標準(Fit)」に無理やり特注業務を押し込もうとした結果、現場はExcelを用いた一括インポートや自動処理による効率化もシステムの厳格な制約によって阻まれ、システム仕様に合わせた「膨大なデータ投入作業」に連日追われることになりました。最終的に現場の業務量が以前の約2倍に膨れ上がり、モチベーションの低下を招くという深刻な事態に陥りました。

システムの仕様に合わせるためのデータ転記など、本来の設計業務とは異なる付帯作業が煩雑で膨大になる一方で、システム投入前の検討プロセスや暗黙知的な準備データはシステム外に放置され、かえってデータのサイロ化と業務の属人化を深刻化させてしまった典型例と言えます。

「Fit率90%超」の甘い罠と、実務視点でのアーキテクチャ比較

システム導入の検討時において、ITベンダーからの提案時に、「このパッケージなら貴社の業務に90%以上Fitします」といった響きの良い説明を受けることがあります。しかし、この言葉には注意が必要です。

別の企業(B社)の例では、事前の評価においてベンダー側から「適合率(Fit率)9割」と提示されたものの、いざ実装が始まると個別受注特有の複雑な構成(150%BOM等)の処理で著しいパフォーマンス低下を引き起こし、プロジェクトが一時中断する事態となりました。最終的に、パッケージのデータ構造上で管理すると複雑になってしまう部品属性情報の管理などはパッケージの外へ切り出す(外出し機能とする)とともに、特注のような「データ構造上適合性が低い機能」や「そもそもの仕組みとしてPLMの機能とは異なる」といった部分は、早期に別管理にする(別途、特注機能として開発する)という大幅な軌道修正を余儀なくされたのです。

PLM構築における選択肢は、既製のパッケージ導入だけではありません。自社の実務要件に応じて、ゼロから開発する「スクラッチ(自社開発)」や、双方の強みを組み合わせる「ハイブリッド型」を選択肢に含めることが重要です。それぞれの手法には、以下のように一長一短があります。

構築手法

メリット(実務上の利点)

デメリット(実務上のリスク)

① 大手PLMパッケージ

世界的な実績による長期運用の安心感

BOMや変更管理などの王道機能が標準網羅

AI活用、CAD/ERP連携や海外展開など将来の拡張性が容易

自社業務をシステムへ無理に寄せる必要性が生じやすい(自社強みの滅失)

アドオン(追加開発)に伴うコストの増大

どこまで標準に合わせるかの判断(Fit&Gap)に時間を要し、「作る」より「決める」工程で長期化しやすい

② スクラッチPLM(自社開発)

現在の実務プロセスをそのまま再現可能(現場の抵抗が低い)

不要な標準機能が混ざらずシンプルな画面構成

必要な領域からアジャイルかつ段階的に開発可能

変更管理や版管理の設計が後回しになり、開発後半に破綻しやすい

開発者の退職等に伴うシステムの属人化リスク

将来的な技術拡張、大規模対応やCAD連携の改修負荷が重い

③ ハイブリッド型

「コア機能は堅牢なパッケージ、現場接点は柔軟な自社開発」という最適配置が可能

コア(BOM・変更管理)でパッケージの安定性を享受

現場寄りの周辺業務はスクラッチや外部アドオンで柔軟に対応

パッケージ領域と自作領域の間でデータ連携設計が必要(場合によってはデータ二重持ち)

全体のデータ整合性を管理する仕組み(データデザイン)が不可欠

自社の実務に最適な解を「フラットに、共に考える」ことの重要性

先述した「業務量が倍増し、モチベーション低下に陥ったA社」のプロジェクトにおいて、正常化(復旧)へと導くために当社が最初に着手したことは、「標準品の流し方」と「特注品の流し方」を明確に切り分けることでした。

標準と特注の流し方を無理やりパッケージに合わせようとするとうまくいかないため、これらをきれいに切り分けることが最大のポイントになります。当社はA社に対し、標準的な管理領域はパッケージに任せつつ、特注対応に必要な要件は「外部アドオン(ハイブリッド)」として切り分けて再構築するよう軌道修正を行いました。結果として、現場のエンゲージメントを取り戻し、40%以上の効率化を果たしてプロジェクトを正常化(復旧)させることができました。

重要なのは、特定のパッケージ製品の導入ありきで進めるのではない、客観的な視点です。自社の強みである「すり合わせ力」を維持すべき領域と、業界標準の機能に委ねて効率化すべき領域を明確に切り分け、実務要件と各手法の利害を照らし合わせながら、最適なグランドデザインをフラットに見極め、一緒に考え、設計していくプロセスこそが不可欠となります。

業務要求をデータ構造へ変換する「3つのステップ」

現場の業務要求を、システム上で機能するデータ構造へと変換し、実装工程での手戻りを防ぐためには、実務に即した段階的なアプローチが必要です。ここでは、要件定義における具体的な3つのステップを解説します。

STEP 1:業務プロセスの可視化(全体像の定義)

まずは、各部門で分断されている現在の業務フロー(AS-IS)を把握し、引き合いから設計、生産手配に至るまでの全体的なあるべき姿(To-Be)を定義します。対象となる製品群の境界線や、関連するシステム(CRM/CPQ・ERP・MDM・CAD・MES・需給計画/生産計画関連システムなど)とのデータ連携の全体像を明確化します。

STEP 2:静的データ構造の定義(モノの構造化)

次に、業務プロセスの裏で扱われている「モノ(マスタデータ)」の静的な関係性を整理します。具体的には、部品や製品の採番ルール、BOM(部品表)の要件と階層構造、図面や技術文書等のデータ属性を定義します。個別受注製造業においては、機種・仕様・部品の関係性を論理モデルとして可視化し、システム内で管理すべきマスタの構造を設計します。さらに、部門間や社外協力会社との連携を見据えた技術情報の「アクセス権限(セキュリティポリシー)」の策定も、この静的定義の重要な領域です。

STEP 3:動的データ構造の構築(トランザクションの定義)

最後に、業務の進行に伴ってデータがどのように変化・移行するか(トランザクション)を定義します。顧客からの要求仕様がどのように設計仕様やE-BOM(設計部品表)に転写されるのか、また設計変更が発生した際にどのようなルールで改訂処理が行われ、関連データへ波及するのかといった動的な処理ルールをシステム仕様として落とし込みます。さらに、M-BOM(製造部品表)への連携もスコープにいれる場合は、部品表(BOM)と工程情報(BOP:Bill of Process)の動的な関係ルールも明確に定義します。

また、この際には「標準」と「特注」といった業務のパターン別の整理が極めて重要です。前述のとおり、「どこまでをパッケージの標準機能で対応し、どこからを異なる手段(外部アドオン等)で対応すべきか」という機能分担の判断も、このトランザクション定義における重要なポイントとなります。

このデータ視点での緻密な整合性検証を行うことが、実装フェーズでの仕様変更や手戻りを防ぐ上で、不可欠なプロセスとなります。
 

実装から現場定着までをやり抜く実行力が、投資を成果に変える

上記のステップを経て論理データモデルを構築した後は、それを実際のPLMプラットフォーム上に実装するフェーズへと移行します。

しかし、システムの構築が完了してもプロジェクトは完結しません。既存システムからのデータ移行、不整合な過去データのクレンジング、そして現場のユーザーが新しいシステムを円滑に利用するための運用ルール(規程や部署別ローカルルールを含む)の整備と教育が必要です。

新しいシステムへの移行は、現場の業務プロセスに変化を伴います。稼働後に発生する運用上の課題に対して迅速な対応を行い、システムを現場の日常業務として定着させるまでの運用支援が、PLMへの投資を実際の事業成果へと結びつける重要な要素となります。

まとめ|フューチャーアーティザンが提供する「実務型PLM導入」

理想的な「グランドデザイン」を描いた次に、その目的や効果を確実に達成するために極めて重要となるのが、パッケージとスクラッチの最適な「機能分担」、そして実務を破綻させない「データ構造定義(論理データモデルの構築)」の二つです。フューチャーアーティザンは、この二つの核心を突く実務型のパートナーとして、構想策定からシステムの実装、安定稼働までを一貫して支援しています。

● 最適なアーキテクチャに導く「機能分担(システムデザイン)」:
既製の標準機能に無理に業務を合わせるのではなく、導入時点だけでなく将来を見据えた各社製品の最新機能や、その提供価値を最大限に活かせるかを見極めます。例えばAras Innovatorなどの柔軟なプラットフォームを活用し、パッケージ標準を活かしつつ自社の競争優位性を損なわない「標準+最小拡張」のハイブリッドなシステムアーキテクチャを構築します。

● データ構造定義を形にする「翻訳力」:
現場の暗黙知や複雑な設計プロセスを、抽象的な業務フロー図にとどめず、実システムに実装可能なデータ構造(論理データモデル)へと翻訳・再定義します。システムの制約や、堅牢なアクセス権限・セキュリティ統制と実務の因果関係をここで厳密に定義することが、破綻しないPLMの土台となります。

● 新しい運用を現場に根付かせる「伴走力」:
システムの実装にとどまらず、データ移行から稼働後の定着支援まで、現場が実際にシステムを運用し、業務効率化の成果を得られるまで実行をサポートします。
「パッケージ標準に自社の業務が合わない」「データのサイロ化を根本から解決したい」など、製造業の「稼ぐ力」を支えるシステム環境・データ構造の整備にお悩みの際は、ぜひ私たちフューチャーアーティザンにご相談ください。
理想のシステム構想を現実の成果に繋げるための具体的なアプローチについて、さらに詳細な手法をまとめた実践向け資料をご用意しております。貴社のプロジェクト推進にぜひお役立てください。

関連コラム

関連サービス

お問い合わせ・資料請求はこちら

見積依頼や無料相談はこちら

かんたん1分

人気記事ランキング