「すり合わせ力」を稼ぐ力に、設計の“思考プロセス”に踏み込む「真のPLM」

日本の製造業は「稼ぐ力」の向上が課題とされている。一因として、強みである「カスタム対応力」を属人的なノウハウで維持することが困難な現状がある。日本の強みを生かしつつ、仕組み化や効率化するにはどうすればよいのだろうか。

転載元:TechFactory
TechFactory 2026年5月26日掲載記事より転載。本記事は TechFactoryより許諾を得て掲載しています。
 

日本の「強み」が「弱み」に転じる構造に

数々の製造業を支援してきたフューチャーアーティザン コラボレーティブパートナーディビジョン 執行役員の上野拓人氏は「顧客要求を捉えて製品に反映する力は日本の製造業共通の強みで大事にしていくべきです。ただし、それを今後も維持していくためには属人化したままでは難しいのは明らかです。ノウハウや暗黙知を形式知化して現場で活用できるようにしなければなりません。属人化されたノウハウも、もともとは学術的な論理の上に成り立っており、それをきちんと形式知化するのがポイントです」と説明する。

これらのモノづくりに関する情報を形式知化し一元的に蓄積するためのシステムとして、再注目されているのがPLM(Product Lifecycle Management)システムだ。しかし、多くの製造業がPLMを導入してきたものの、それを成果に結び付けられている企業は限られている。特に、日本企業で増えつつある少量多品種製造業および個別受注製造業では期待した効果が得られないケースが少なくない。

フューチャーアーティザン コラボレーティブパートナーディビジョン アイ・デザイン・パートナー部 部長の團野晃氏は「個別受注製造業では、あらかじめマスター情報を全て用意することができません。量産製品であれば全てのバリエーションを網羅したマスターBOM(Bill of Materials)を用意し、そこから引き算をして受注BOMを作成できます。しかし、個別受注製品は全ての製品が異なるため、少しの変更で新しい品番を発行し続けると類似部品が乱立し管理不可能になります。事前にマスターを定義しきれないのです」と問題の本質について説明する。

その結果、少しでも標準から外れた仕様は全てカスタマイズ扱いとなり、特注設計が増え続け、PLMはただの設計成果物の「入れ物」になってしまう。さらに、PLMで厳密に管理を行おうとすると、微細な変更のたびに膨大な関連データのひも付け更新が必要になる。データが複雑化し過ぎてしまい、いざ活用しようとしても使えない状態になってしまう。そのため、モノづくりのデータをPLMで適切に管理することを考えると「定義できないことを前提にしたマスターの作り方が必要です」と團野氏は強調する。

個別受注製造業におけるPLM構築の3つのポイント

團野氏は「『稼ぐ力』を意識した個別受注製造業におけるPLMシステムの構築には3つのポイントがあります」と説明する。

第一は、「モノ」ではなく「スペック」で管理することである。「完成した図面の結果管理は、システムを動かすための業務を増やすだけで『自社都合の効率化』に過ぎません。そうではなく、顧客要求を起点とした『スペック(仕様)』のマネジメントこそが、売れる標準化の鍵となります」(團野氏)。

第二は、最上流の顧客接点からつなげることである。PLMを設計や製造など自社に閉じた枠だけで捉えると失敗する。売れる標準化仕様を作るためには、営業から設計、製造までを一気通貫でつなげる仕組みが必要だ。

第三は、「データデザイン」と「設計ルール(Configuration)」を「心臓部」とすることである。PLMでデータをどう持たせるか(データデザイン)と、多様な要求を標準に落とし込む「設計ルール」を構築して初めて、個別受注製造業のPLMによる変革が実現するのである。

團野氏は「必ずしも特注品を全て標準化する必要はありません。特注品は特注品として、リードタイムをいかに短縮するかを追求することです。仕様とそれに関連する部品を別で管理することができれば、それらを組み合わせて設計ルールを付加するだけで済むかもしれません。そういうやり方が、カスタム対応の多い日本の製造業の強みとなるはずです」と説明する。

そのため、デザインモデル方法論(仕様の組み合わせとして定義する方法)を用いて管理対象とその関係性を明確にすることが重要だ。「マスターとなる設計ルールを開発する製品群管理へ変革することが重要です。機種、仕様、部品(構成、工程)の3つの視点で関係を可視化し製品群設計モデルを構築し、ビジネスに最適な製品アーキテクチャを考えることがマスターデザインの狙いです」と團野氏は述べる。

また、将来の機種展開を見越して戦略的に部品バリエーションを設定し、部品数の削減と機種バリエーションの維持、展開の両立を図っていくことが重要となる。「機種から仕様、そして仕様から部品や工程が見えるようにしないと属人化してしまい、ベテランなど特定の担当者が抜けるとともに重要なノウハウが失われてしまいます。これらは企業の資産でもあることを忘れてはいけません」(團野氏)。

PLM導入のポイント[クリックで拡大] 提供:フューチャーアーティザン

顧客接点から工場までつなぐデータハイウェイ

さらに、上野氏は、製造業の本質的な付加価値創造は「設計情報の流れ」にあると訴える。「『モノ』はあくまで媒体であり、顧客の要求に基づいて『設計情報』を創造し、転写し、発信し、顧客に提供することが、開かれた広義のモノづくりです。この『設計情報の良い流れ』を作ることが本質的な付加価値を増やすことにつながります」(上野氏)。

調達、生産、販売といったモノの流れと業務プロセスのDXだけでは、個別受注製造業の改革は実現できない。最上流である顧客要求から設計情報の流れ、つまり「思考プロセス」に踏み込んだ変革が必要だ。そして、顧客要求から製造指示までをよどみなくつなぐ「データの整流化」を実現する基盤、それが「データハイウェイ」である。

「『設計情報の良い流れ』を作るためには、顧客と工場間のデータハイウェイが必要です。そこで『デザインチェーン(顧客に要望を素早く設計に反映し、付加価値を与える「売れる製品づくり」を管理するプロセス)』によって、最上流である顧客要求という源流の情報からたどっていけるようにするわけです」(上野氏)

「設計情報の良い流れ」を作るために顧客と工場間のデータハイウェイが必要[クリックで拡大] 提供:フューチャーアーティザン

実業務を駆動する仕組みとして動かす

このデータハイウェイを実際の業務の中で駆動させ、仕組みとしての過不足を修正するとともに、データなどについてもフィードバックを反映する形で改善していくことが重要になる。

團野氏は「モノづくり業務全てを形式知化し自動化することはできません。しかし、顧客接点の最上流である要求から仕様、構成、工程へと至る情報の流れを、単なる文書としてではなく、業務を実行する仕組みとすることで、『設計情報の流れ』を骨格としてシステム化することは可能です。これを常に維持しながら、顧客への提供価値を整流化することで対応の高速化が実現できます。これが稼ぐ力向上につながるのです」と価値を説明する。

例えば、PLMとCPQ(Configure Price Quote)ソリューションを組み合わせることで、顧客要求から生産までをつなぐ設計情報のデータハイウェイを構築できる。要求、仕様とその転写に必要な設計ルールをマネジメントし、フィードバックを積み重ねることでカスタム対応力を維持しながら多くを自動化できる。

フューチャーアーティザンでは、これらのモノづくりに必要な情報や知見、ノウハウについて、実際の業務内容を確認しながら、システム化しデータハイウェイとして一元的に管理する仕組みの構築支援を進めており、既に数多くの支援実績がある。

実際に、フューチャーアーティザンが支援した産業機器メーカーでは、顧客の要求から生産情報までを一貫して連携し、従来は個別対応だった「すり合わせの特注品」を、機能単位にモジュール化することで「組み合わせ品」として対応できるように変革したという。顧客からの要求仕様をシステム上で入力することで、製品の組み合わせを自動で選定できる「セールスコンフィギュレーター」というシステムを構築し、プロセス全体の効率化と新たなビジネス創出への足掛かりを作ることができたとしている。

上野氏は「『稼ぐ力』を高めるためにありたい姿から逆算して考えることが重要です。多くの場合、PLMなどのシステムを導入することが目的となってしまいがちですが、フューチャーアーティザンでは、目指すべき姿から現実的な形でそれを支援できるシステムやデータ整備を総合的に支援しています。理想からの逆算となると壮大なものになりがちですが、過去の実績などからデータやマスターの整備についても現実的な提案を行うことができ、短期間で導入して成果が出せる点も特徴です」と訴えている。

設計情報の流れが重要[クリックで拡大] 提供:フューチャーアーティザン

AI活用を左右するデータデザインの重要性

フューチャーアーティザンではこれらの総合的な支援を進める中で、得られたデータを生かしてAI(人工知能)の活用支援にも取り組んでいる。

上野氏は、今がAI活用に向けたデータ基盤構築の重要なタイミングだと強調する。「AIに学習させるにも、現在暗黙知となっている各企業が持つ強みの部分まで理解させなければ、本当の意味で役に立つAIにはなりません。そのためには暗黙知の形式知化まで踏み込んだデータデザインをしっかりと進めることが必要です。それが今後の日本のモノづくり力となっていくのです」(上野氏)。

AI活用のポイント[クリックで拡大] 提供:フューチャーアーティザン


日本製造業の「稼ぐ力」を取り戻す鍵は、データの共通基盤に加えて、技術者の暗黙知になっている「見えざる資産」を形式知化して組織の資産へと転換することにある。そのためには、顧客接点から工場までをつなぐ設計情報のデータハイウェイが必要となる。フューチャーアーティザンは、個別のシステムにこだわらず「稼ぐ力」にフォーカスし、それを支えるPLMなどのデータ基盤の在り方やデータの持ち方について、豊富な支援実績を持つ。モノづくりにおける一元的データ基盤の整備に悩む企業はぜひ相談してみてはいかがだろうか。

フューチャーアーティザン 上野氏(左)と團野氏(右)

「見えざる資産」を組織の力に変える『真の PLM 変革』

本ホワイトペーパーでは、グローバル化や人材不足の進展により顕在化している、製造業における属人化や暗黙知継承の課題を取り上げます。そのうえで、AI活用を見据えた設計情報の仕組み化と、企業の「稼ぐ力」を高めるための取り組みについて解説します。

「業務・データ要求アプローチ」実践ガイド
データサイロを打破し、AI-Readyな環境を構築する「有機的グランドデザイン」の本質と進め方~
本ホワイトペーパーでは、PLMリプレイス・導入を成功に導くための考え方と実践アプローチについて説明します。

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