教室を飛び出し、社会とつながる高校生の探究――企業とともにSDGsに挑む

文部科学省が導入を進める「総合的な探究の時間(総合探究)」は、生徒の主体的な学びや思考力を育むことを目的とした、先進的なカリキュラムである。生徒たちはインターネットや書籍などを活用して情報収集を行いながら、自ら課題を設定し、探究活動を深めていく。今後は、現場や当事者の声に直接触れる機会の拡充や、教員のサポート体制の強化が進めば、より多様で実践的な学びが実現されることと期待されている。

こうした状況も踏まえ、福岡県立八女高等学校では、これからの時代を生き抜くための資質・能力の育成を目的に探求型学習「ちきゅうみらいプロジェクト」に取り組んでいる。「ちきゅうみらいプロジェクト」は、テーマ設定から調査、分析、行動、発表までを一貫して生徒自身が行う実践型の学習が組まれており、公益社団法人経済同友会および大学などの外部機関と連携し、高大産学連携・分離融合方の探究活動を行っている。
この取り組みのテーマの1つが、フューチャーアーティザンと連携した「SDGs総合探究カリキュラム」である。PDCAサイクルを回すための実践的なカリキュラムと具体的な方法論が生徒に提供され、生徒たちが企業担当者と意見交換するなど、単なる知識の取得で終わらせていない。具体的な社会課題に根ざした問いを立て、その解決に向けて行動する「行動変容」を実現している。

お客様に聞く

福岡県立八女高等学校 生徒指導課長 教諭 大原慎之助氏(右から1人目)
福岡県立八女高等学校 学年主任 教諭 吉川奈穂美氏(左から1人目)

※役職は取材時点に基づく

116年の歴史を刻む文武両道の伝統校、福岡県立八女高等学校は1908年に創立され、県内で7番目に設立された伝統校である。卒業生は3万人を超え、筑後地域を中心に多くの人材を輩出してきた。
「地域社会との結びつきは強く、地元の自治体や企業でも数多くの卒業生が活躍しています」と、同校 生徒指導課長 大原慎之助氏は説明する。
国公立大学や難関私立大学への合格実績を持つ進学校でもある。加えて、文化部・運動部ともに高い水準を維持しており、県大会や全国大会での活躍もめざましい。「文武両道」の精神を実践する校風が継承されている。
とりわけ学校生活の基本として重んじられているのが、「挨拶」の文化だ。「校門一礼」と呼ばれる習慣があり、生徒は登校時・下校時に校門で一礼をする。
「ひたむきに頑張ることのできる生徒たちです。1つのことにしっかり向き合って努力する大切さを知っています」と生徒たちの気質を、学年主任 吉川奈穂美氏は紹介する。生徒同士の関係も良好で、温かな人間関係が校内に築かれている。

探究の深化と拡張「ちきゅうみらいプロジェクト」

同校の「ちきゅうみらいプロジェクト」は、「総合的な探究の時間(総合探究)」の一環として行われている。目指すのは、知識や学力にとどまらず、社会に出てからも通用する本質的な力を育むことにある。
「今、社会人に求められている力の多くは、企業で当たり前とされている課題設定や問題解決のスキル。でも、学校の中ではそれが当たり前ではありません」と吉川氏は指摘する。

答えのない問いにどう向き合うか。どうやって正解のない課題に挑んでいくか。そうした学びを支えるには、学校内だけでなく、外部の知見や関与が不可欠だという結論に至った。「私たちだけで指導するよりも、外の世界を知っている方々から直接いろんなことを伝えていただいた方が、生徒にとって本当に力になると感じました」(吉川氏)。
そこで、同校では、経済同友会の協力を得て、企業経営者による講演を実施するなど、探究活動に社会人の視点を積極的に取り入れることとした。フューチャーアーティザン代表の田中剛が、経済同友会の「学校と経営者の交流活動推進委員会」の委員を務めており、同校の探求授業担当としてかねてからESG経営やSDGsに携わっていたフューチャーアーティザンが協力することになった。

吉川 氏

3年間を通じた“問いと対話”の実践

「ちきゅうみらいプロジェクト」は、生徒の主体的な探究活動を3年間かけて段階的に育むカリキュラムである。
1年生では、探究活動の土台作りに焦点を置く。進路への関心をつなげるため、文理選択や大学・職業に関する調査学習に取り組む。後半にはディベート形式の授業を導入し、「自分で調べる力」「情報の真偽を見極める力」、さらに「自分の言葉で発信する力」を育むための訓練を行う。
2年生では、外部機関と連携して本格的な探究活動に取り組む。「国際化」「金融」「国際理解」「SDGs」「ヘルスケア」「デジタル」「イノベーション」「地域活性」「医療サイエンス」の9つのグループに分かれて年間を通じた課題探究を実施している。
3年生では、これまでに培ったノウハウや対話力を活かし、自分の将来像と社会とのつながりを見つめ直すディスカッションを行い、進路への意識を明確にしていく。
こうした一連の取り組みは、「学び」だけで終わらせず、「行動」や「進路の自覚」につなげることを意図している。生徒自身が問い、調べ、話し合い、将来像を描く。その循環を3年間かけて構築している。

探求を「知る」から「動く」へ変えた、企業の視点

フューチャーアーティザンは、「SDGs」グループへの支援業務を担当し、グループの取り組みを側面から支えた。
生徒たちは3つのチーム(環境・経済・社会)に分かれ1年先の最終発表に向けて「自分たちで決めた課題に対して何らかの行動を起こす」ことをゴールに据えて取り組んだ。
初期段階では、フューチャーアーティザンより、課題解決型学習に必要な「PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)」についてのレクチャーが行われた。
プロジェクトの中盤では、テーマ設定に苦戦する生徒も多く、活動が本格化したのは中間発表以降だった。中間発表では、企業関係者や他学年の生徒を招き、各グループが現時点での課題設定や仮説をプレゼンテーションする。これを契機に、生徒たちは行動計画の立案に本腰を入れて取り組み始めた。活動は校内にとどまらず、地域社会や企業との接点も広がった。
最終発表会では保護者や外部関係者も招いて成果が発表された。各グループは、課題設定から調査、計画立案、行動までを一貫して実践し、1年間の活動を言語化してまとめた。
「探究の終着点を“知る”ことではなく“動く”ことにしたいという思いがありました。その点で、今回のフューチャーアーティザンとの連携は大きな意味を持ちました」と大原氏は振り返る。
高校の教育現場にありがちな「すべて教員で抱え込む」体制を見直し、このように外部へ大胆に委ねたことが、プロジェクトの成功要因の1つとなった。

大原 氏

声を上げ、社会と向き合う生徒たちへ

「ちきゅうみらいプロジェクト」は、単なる探究学習の枠を超え、生徒たちの内面に大きな変化をもたらした。プロジェクトの開始当初、生徒たちは声が小さく、意見を述べることにも消極的だったが、1年間の活動を経てその姿は大きく変わった。
 「まず話すようになりました」と大原氏は認める。探究活動がグループで進む中で、生徒同士が自然に意見を交わすようになった。スライド1枚の構成に対しても、「もっとこうした方がいい」と互いに改善提案を出し合う様子が見られた。中間発表、本発表を通じて、すべての生徒が必ず自分の言葉で人前で話す経験を積む。

吉川氏は「一言でいえば、自信がついた」と語る。最終発表の場では、保護者だけでなく企業関係者や地元の社会人も来場する中、生徒たちは堂々と課題を発表。最初に「おとなしいですね」と言われていた生徒たちが、1年後には「よくここまで成長しましたね」と評価されるようになっていた。

探究は“点数”では測れないからこそ価値がある

今後の展望について、大原氏は「非認知能力が育まれました。これは私たち教師だけでは実現できません。外部の方々とつながり、企業や団体に協力を依頼したからだと思います」と語る。探究活動は定期テストのように数値で成果を測ることは難しいが、だからこそ教育現場にとって本質的な力を育てる機会となる。今回の経験を通じて、教員である自分自身も学びが多かったと大原氏は振り返る。
一方、吉川氏は、「今後は、総探で得た力を他の場面でも活用できるようにすることが課題」だと話す。プレゼンテーションや対話力、情報の扱い方といったスキルは、学校行事や日常の授業、進路選択などにも応用可能だが、生徒はまだ“総探の中だけのもの”として受け止めがちだという。「せっかく多くの引き出しを持てたので、それを使いこなす力を育てていくのが、今後の私たちの使命です」と語る。

フューチャーアーティザンは、外部企業として1年間にわたり関わり続け、教材提供から生徒の支援、教員との協議に至るまで多面的な支援を行った。
今回の体験を通じて、吉川氏は文部科学省のある一文を引用する。「ちゃんとやれば、教師が変わる、生徒が変わる、そして地域社会が変わる――本当にその通りでした。これまで机上の空論だと思っていた言葉が、1年間で実感に変わりました。だからこそ、この取り組みをもっと続けていきたい」と期待する。
「企業の方々の強力がなければ、ここまでの成長はありませんでした。本当に感謝しています。教員にとっての成果は、生徒の成長そのもの。それを目の当たりにできたことは本当にありがたい」と大原氏は外部への謝意を語る。
外部の企業や団体の力を借りながら、生徒の「行動変容」を促す仕組みは、今後のモデルケースとなるだろう。

お客様プロフィール

校名

福岡県立八女高等学校

所在地

〒833-0041 福岡県筑後市和泉251番地

生徒数

720名程度(1学年6学級)

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